名古屋地方裁判所 平成4年(ワ)3959号 判決 1995年1月30日
原告
甲野花子
右訴訟代理人弁護士
浅井岩根
被告
株式会社ファミリー総合調査事務所
右代表者代表取締役
中東和幸
右訴訟代理人弁護士
北新居良雄
同
片山主水
同
中山敬規
主文
一 原告の主位的請求を棄却する。
二 被告は、原告に対し、金八二万一〇〇〇円及びこれに対する平成四年一二月一一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の予備的請求を棄却する。
四 訴訟費用は被告の負担とする。
五 この判決は仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金九七万一〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成四年一二月一一日)から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 主位的請求原因
1 被告は、個人及び企業の信用調査業務の請負を目的として、昭和五九年五月一四日に設立された株式会社である。
2 被告は、NTTタウンページ(名古屋上巻あ〜す93・6〜94・5)に、「すぐれた調査技術と高度な電子設備により確かな実績」、「一級の調査技術は結果をお届けします。」等の文句を含む宣伝広告(以下「本件広告」という。)を掲載した。
3 原告は、夫である訴外K・M(以下「M」という。)の不貞行為に悩んでいたが、本件広告を見て、被告にMの調査を依頼すれば、適時に的確な調査と報告を得ることができるものと考え、被告との間で、平成四年八月二五日(以下、月日のみで示す場合の年は平成四年である。)次のような内容の調査契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
調査名 被調査人Mの行動調査
調査期間 七日間
調査費用 七〇万円(二名の調査員と二台の車両使用)
写真準備金 二万一〇〇〇円
延長料金 一日六時間を超える場合、一名・一時間につき一万五〇〇〇円
調査報告書の引渡日 調査実施完了後一〇日以内
4 原告は、八月二五日、被告に対し、頭金として一万円を支払い、八月二七日、残金七一万一〇〇〇円を支払った。
5 本件契約において、調査は八月二六日から開始される約束であったが、原告は、同日早朝Mの九州出張を知り、同日午前九時ころその旨を被告に伝え、八月二九日夜名古屋空港からの調査開始を依頼した。
被告は、八月二六日の調査を中止したものの、この日はキャンセル扱いとはしなかった。
6 原告からの調査状況についての問い合わせに対する被告担当者の口頭説明によると、被告が行った調査の実情は次のようなものであった。
八月二九日
午後四時ころから名古屋空港で調査を開始したが、到着口で写真を撮ろうとカメラを取りに車に戻っているうちにMを取り逃がしてしまった。
八月三一日
午前一一時ころから、Mの勤務先である株式会社K工作所付近で見張るも、M及びその車両を確認できなかった。
九月一日
午前七時一〇分ころから、M宅付近で調査を開始し、K工作所まで尾行、午後一時四五分ころK工作所を出たMを尾行するも、すぐ近くの桜見町交差点で取り逃がしてしまった。
九月二日
午前一一時ころから、K工作所付近で見張るも、M及びその車両を確認できなかった。
九月三日
午前九時ころから午後七時ころまで、K工作所付近で見張るも、M及びその車両を確認できなかった。
7 このように被告の調査は、Mを確認できたがすぐに取り逃がしてしまった日が二日間、M及びその車両を全く確認できなかった日が四日間と杜撰なものであり、調査実施完了後一〇日以内に引き渡されるべき調査報告書も期間内に届けられず、その後平成五年四月五日に法廷に提出された調査報告書もその内容は次のとおり極めて不完全なものであった。
即ち、七日間調査してMを確認できたのはわずかに二日間で、いずれも自動車尾行後まもなく尾行不能に陥ったというものである。
8 以上のとおり、被告は、調査及び報告の高度な資質も訓練もないアルバイト主体の貧弱な組織や調査実績しか有しないにもかかわらず、高度な調益技術や実績があるかのような本件広告をNTTタウンページに掲載し、Mの不貞行為に悩む原告に対して、被告に調査を依頼すれば、あたかも適時に的確な調査と報告が得られるかのように誤信させ、原告をして本件調査契約を締結させたのであるから、被告は民法七〇九条により、原告の後記損害を賠償すべき義務がある。
9 原告が、4項記載のとおり支払った調査費・写真準備金名下の七二万一〇〇〇円及び原告訴訟代理人(以下「原告代理人」という。)に委任し、必要となった弁護士費用二五万円合計九七万一〇〇〇円は、本件不法行為と相当因果関係のある損害である。
二 予備的請求原因
1 本件契約に基づく被告の債務の履行は、まず調査の内容それ自体が、主位的請求原因6項記載のとおり極めて不完全なものであるうえ、調査報告書の引渡日が調査実施完了後一〇日以内とされているにもかかわらず、九月下旬になってもこれを引き渡さず、その後、平成五年四月五日に法廷に提出された調査報告書も、前記7項記載のとおり、その内容が極めて不完全なものであった。
いまさら完全な報告書を作成し直すこともできず、さらに当時は離婚調停の前だったのに今は離婚訴訟中であるなど原告とMとの関係が全く変わってしまっていることなどから現時点で完全な調査をして報告書を提出し直しても調査契約の目的を達することはできない。
2 そこで、原告は、被告の債務不履行を原因として、平成四年一〇月二日付通知書(一〇月三日到達)をもって被告に対し、本件契約を解除する旨の意思表示をした。
三 よって、原告は、被告に対し、不法行為あるいは債務不履行による損害賠償請求権に基づき、前記九七万一〇〇〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成四年一二月一一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
四 請求原因に対する認否
1 主位的請求原因1、2の事実は認める。
2 同3の事実中、調査期間が七日間であったことは否認する。調査期間は七日間ではなく、一日を一回として七回ということである。
したがって、調査費用は一日あたり一〇万円であり、七回の契約ということで七〇万円となった。その余の事実は認める。
3 同4の事実は認める。
4 同5の事実中、原告が、被告に対し、八月二六日午前九時ころ、Mの九州出張を伝え、同月二九日夜からの調査開始を依頼したとの事実は否認し、その余の事実は認める。原告は、Mの九州出張の事実を同月二八日午後になってから被告に知らせたものである。
5 同6の事実は否認する。
被告の調査員が、名古屋空港到着口で写真を撮ろうとカメラを取りに車に戻っているうちにMを取り逃がしたという事実はない。
また被告は、八月二九日の調査からはしばらく期間をおいた方が効果的であると判断して、九月七日から再度調査を実施することにしたのであって、八月三一日、九月一日、九月二日および九月三日の調査は行っていない。
6 同7の事実は否認ないし争う。
被告の調査中、尾行不能となった日が二日あったことは認めるが、いずれも交差点の信号待ちの間に尾行不能になるなどの理由があったものである。
また調査報告書の引渡しについても、そもそも調査を終了させるべきかについて、原告と被告との間で明確にされていなかったのであり、その後の原告・被告間の接触においても、原告は「調査報告書は無用。」との受領拒否の態度を取っていたのである。
7 同8、9の主張は争う。
8 予備的請求原因1の事実についての認否は、主位的請求原因の各該当項に対する認否に同じ。
9 同2の事実は認める。
五 被告の主張
1 本件契約における被告の債務は、所定の調査日に調査を実施し、調査の終了後、その調査結果を報告書にして所定の期日までに原告に引き渡すことであり、原告が希望する調査結果を得てそれを報告することではない。
2 被告は、九月一〇日に原告代理人から初めて電話連絡を受けた時点では、本件契約における七回の調査回数のうち、八月二六日(当日キャンセルのため有料の分)、八月二九日、九月七日、九月八日、九月九日、九月一〇日の計六回の調査を行っていたが、あと一回の調査日を残していて、未だ調査の途中であったものであり、被告が残りの一回の調査日に関し原告と協議しようとしていた矢先に、本件紛争が発生し、そのまま現在に至っているものである。
3 したがって、調査未了の状況にあったのであるから、被告には調査結果を報告書にして原告に引き渡すべき債務自体が発生していなかったものである。
また、被告が報告書を提出することを申し出たことに対し、原告代理人がその受領を拒否したものであるから、被告は、本件調査契約の履行に関し、不完全、遅滞及び不能といった債務不履行の責任はない。むしろ、原告代理人が報告書の受領拒否の意思を表明したことによって、被告の債務の履行が不能となったものである。
第三 証拠
本訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
(以下、本理由中の書証で成立に関する記載のないものは、すべて成立に争いがないか、証人木村恵美子または同窪田昇の各証言[以下「木村証言」または「窪田証言」という]により成立の認められたものである。)
一 主位的請求原因(不法行為の主張)について
1 請求原因1(被告の業務)、2(本件広告)の事実については当事者間に争いがない。
2 請求原因3の事実中、原告・被告間で本件契約が締結されたこと(調査期間の点を除く)については当事者間に争いがないが、原告が被告との間で本件契約を締結した経緯については、原告本人尋問の結果(以下「原告の供述」という。)によると、「以前、姉が義兄の行動調査のため被告を利用したことがあり、信用できると思った」ことによるものであることが認められる。
3 そうすると、被告による本件広告掲載と、原告が被告と本件契約を締結し、それに伴い契約代金を支払い、さらに本件訴訟について弁護士費用を支払ったという原告の損害との間に因果関係を認めることはできない。
4 さらに、被告が、本件契約による債務である調査報告を完全に履行し得る人的組織も調査実績もないとの原告の主張については、本件全証拠によってもこれを認めるに十分ではない。
5 以上によれば、不法行為による損害賠償を請求する原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
二 予備的請求原因(債務不履行の主張)について
1 請求原因3の事実中、本件契約の内容について判断する。
一般に、興信所による素行調査は、被調査者の行動を調査し、その結果を報告書にまとめて依頼者に提出することをその内容とするものであり、依頼者の期待する内容の結果を報告することまでの債務を含むものではない。
甲第一号証により、本件契約を検討してもそのような内容を含むものではないことは明らかである。
しかしながら、依頼者の契約目的が、尾行等の調査手段それ自体にはないのが当然である以上、興信所が単純に労務を提供し、形式的な報告をすれば足りるというものでもない。依頼者の調査目的とその報酬に見合うべき調査の専門性からみて、例え周辺的事実であっても依頼目的からみて何らかの有益な情報を一定の合理的な期間内に提供することを含むものでなければならないものと考えられる。そして、右情報を得または得られないことについて、どのような調査技術が駆使され、障害があったかは通常問題とされるはずのものではない。
2 そこで、次に本件調査の実態について判断する。
甲第一号証、第二号証の一、二、第三ないし第五号証、乙第一、第二号証、第五、第六号証、木村証言、窪田証言(ただし、右各証言及び乙第五、第六号証の後記部分を除く)、原告の供述によれば、次の各事実が認められ、右認定に反する右各証言及び乙第五、第六号証の各一部は採用せず、外には右認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 本件調査はMの素行調査を目的とし、Mの尾行及び監視を中心的調査手段として行われたものである。
(二) 本件契約において、調査期間は一日を一回とする七回の一括委託方式で、一回の調査費は一〇万円とされ、八月二六日を初回とし、当面同月二九日までの四日間の連続調査が合意された。
(三) しかし、原告は、八月二六日早朝、Mから同日朝一番の飛行機で勤務会社M工場(鹿児島県所在)に出張し、八月三〇日(日曜日)に帰宅する旨を聞き、Mの飛行機の搭乗時間を見計らってM工場に電話してMの出張予定を確認したところ、八月二九日帰名することが判明し、過去にもそのような行動があったので、調査開始日を右同日からに変更することを伝えるべく、被告の営業時間を考え八月二六日午前九時ころ、被告に電話を入れた。
原告は、電話に出た若い男性の被告当直従業員に対し、「夫が急な出張で土曜日(八月二九日)まで帰らないので、今日から三日間はキャンセルしたい」と告げ、右当直従業員は八月二七日、二八日の調査を取りやめるが、八月二六日の費用一〇万円は免除されない旨の話をした。
(四) しかし、原告の右電話内容は、被告内部で営業担当の木村恵美子(以下「木村」という。)には伝わらず、被告は、八月二七日、二八日と無駄な調査をし、調査費用の負担を八月二七日は被告、同月二八日は原告と分け合う処理をした(甲第五号証、乙第五号証添付の「被調査資料」と題する書面)。
(五) 被告は、その後、八月二九日、九月七日、同月八日、九日、一〇日の五日間の調査を実施し、本件契約の七回分を消化した(八月二六日、二八日を含む)が、平成五年四月五日の第三回口頭弁論期日に提出された被告作成の調査報告書(乙第一号証)によっても、Mを確認できたのはわずかに二日間であるのみならず、その二日間ともMの運転する自動車の尾行を開始した数分の後に交通事情により尾行不能となっている。
また八月二九日の名古屋空港における調査においても、被告は、Mの搭乗していた飛行機の到着時間を時刻表などで確認せず、しかも空港の駐車場に駐車してあったMの車両から安易に目を離すなどして、結果としてMを確認できなかったもので、原告にとって有意味な情報は何ら得られていない。最終調査日である九月一〇日から一〇日以内に提出が義務付けられている調査報告書の原告への引渡しもなされなかった。
(六) 原告は、九月三日原告代理人事務所を訪れ、原告代理人に被告にMの素行調査を依頼している事実を告げて離婚相談をなし、同月一〇日には、さらに、本件調査についての不明確な点を被告に質し、調査費用の返還交渉を行うことの委任もした。
(七) 原告代理人は、原告との関係を説明して、九月一〇日、一二日に被告に電話したが、被告(一二日は窪田昇)は、原告から弁護士に委任したとの話を聞いていないとして相手にしなかった。
(八) 木村は、九月一四日原告に電話し、原告代理人への委任の事実を確認し、まだ調査は終わっていないとして、期間延長を検討する余地はないかとの趣旨の質問をしたのに対し、原告は、その意思のないこと及び原告代理人に被告との対応を委任してあること、原告の父が調査が杜撰であると怒っているなどを話した。
(九) その後、原告代理人は、一〇月二日付通知書により被告に対し、本件契約を解除する旨の意思表示をなし、右通知書は、翌同月三日に被告に到達した(争いのない事実)。
(一〇) 被告は、八月二六日には、原告から、同日の調査のキャンセルのみの連絡しか受けなかったと主張するが、変更の事情がMのM工場への出張のみの事情であったこと、一日一〇万円の調査費用が数日分無駄になる可能性のあることを原告が承知の上で被告に連絡していることからすると、原告が、右同日のみのキャンセルの話しかしなかったというのは不自然であり、原告が被告に同日朝電話するに至った前記認定の経過を考えれば、被告の主張及びこれに沿う前掲各証拠は信用することができない。
仮に、事実が被告主張のとおりであったとしても、初回調査日の変更の事情がどのようなものであるかはその後の調査に極めて重要であり、被告は、詳細な事情を何ら把握しておらず、しかもその変更の連絡は当直員が受けたに過ぎないのであるから、本件調査に直接責任のある木村から、同月二六日中に原告に電話を入れるぐらいのことは当然なすべきであり、このような電話確認もせずに同月二七日からの調査を漫然実施したことは、被告に重大な過失があったものといわねばならない。
(一一) 七回の調査日を消化したとの点は前記認定のとおりであるが、仮に被告主張のとおり、一日残っていたとしても、それは無駄となった日のいずれを回数に数えるかの主として被告の裁量若しくは解釈に属する事柄であるうえ、原告が被告の調査に不満を持っており、被告との交渉を弁護士に委任している事実を知った九月一四日の時点では、被告は、原告との信頼関係の損なわれていることを理解できる状況にあったのであるから、右解釈の差はさておき、調査費用の前払いを受けている事情もあり、直ちに報告書の作成に着手し、遅くとも九月中には報告書を原告に引き渡す信義則上の債務があったとみるのが相当である。
3 以上認定の各事実を踏まえ、前記1項の本件契約において被告の債務として通常期待される水準からみると、被告が行った本件調査の実態は、調査の専門家としての興信所が、一日当たり一〇万円もの調査費用を費やし、専門的な調査技術或は調査設備を駆使して行われたものと評価するには、あまりに杜撰なものであるといわざるを得ない。
4 すなわち、被告がMを確認するために特別の工夫を凝らした形跡は見当たらず、漫然と張り込みを繰り返していたのみならず、Mを確認できたときも、いとも簡単に見失ってしまったのであり、その他の調査にも単純なミスが見られる。
原告にとって有意味な情報は何ら得られておらず、本件契約に従った調査報告書の原告への引渡しもなされなかった。時期に遅れて提出された調査報告書も調査実態の無内容さを反映し、支払った費用に見合い、依頼者の通常の期待に応えるものとは評価し難いものである。
被告は、原告代理人が、調査報告書の受領拒否の意思を表示していたので報告書を提出しないことは債務不履行とはならないと主張するが、原告代理人が右の意思表示をするに至ったのは、本件契約の解除の通知書を被告宛に送付した一〇月三日以降のことであること(甲第五号証)を考えると、理由がない。
5 したがって、被告の本件債務の履行は、本件契約上の債務の本旨に従ったものとはいえず、被告の責めに帰すべき事由による不完全履行であると認められるところ、現時点で完全な調査をして報告書を提出しても、原告とMの夫婦関係も変化し、原告の所期の目的を全うすることはできない事情にあることが弁論の全趣旨により窺えるので、被告の債務は履行不能と同様に評価されるべきものである。
6 原告が、原告代理人を通じて一〇月二日付通知書により被告に対し、本件契約を解除する旨の意思表示をしたことは前記のとおり当事者間に争いのないところ、右解除は5項記載のとおり有効であるから、被告は、原告に対し、既に受領済みの調査費用と写真準備金合計七二万一〇〇〇円を返還すべき義務がある。
7 また、本件のような事案において、原告本人自ら訴訟追行することは、法律知識の不足、訴訟技術の拙さから不測の結果を招来する可能性も高く、相手方が任意履行に応じない場合に自己の権利保全のため訴訟を提起し、適切効率的に訴訟を追行すべく、専門家である弁護士を選任することは相当であると考えられる。
原告が、原告代理人に本件訴訟事件を委任したことは記録上明らかであり、相当額の報酬を支払ったことが推認されるところ、本件事案の難易、請求額等の事情を考慮すると、原告の請求額二五万円のうち一〇万円をもって被告に負担させるべき損害とするのが相当である。
三 結論
以上によれば、原告の本訴請求は、債務不履行による損害賠償として、八二万一〇〇〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成四年一二月一一日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払義務のある限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官柄夛貞介)